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東京高等裁判所 昭和31年(く)95号 決定

本籍 神奈川県横須賀市○○町○○○番地

住居 栃木県足利市○○町○○○○番地

少年 無職 古沢太一(仮名) 昭和十五年二月十五日生

抗告人 少年

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、抗告人は、昭和三十一年十一月十五日(十六日の誤記と認める)、宇都宮家庭裁判所足利支部の審判で○○少年院(中等少年院)に送致されることになつたがそれは不服である。審判当日抗告人は、裁判所で午後一時からの審判に十二時半まで待つていたが、時間が過ぎても、母が来なかつたので、むかむかしていたところ、三時ごろになつて来た。その時本当の心はうれしかつたのだが、むかむかしていたことでもあり、それにおくれて来たので、つい悪いとは知つていながら、手が出て母をなぐつてしまつた。その後よけいにむかむかしたので、つい審判のとき、本当の事をいわずに、悪いとは知つていながら、あんな態度をとつてしまつたけれども、後で考えてみたら、審判のとき、あやまつて、すなおに家に帰り、牧尾さん方で働くべきであつたことがわかつた。審判のとき、母を殴つた後、かわいそうでかなしかつた。まして、母は上着を二枚持つてむかえに来てくれたのに、あんなことをして今は後悔している。これからは、改心して、母などに乱暴はしないで、真面目に働く考えであるから、審判をやりなおしてもらいたいために本件抗告に及んだ。というにある。

そこで、一件記録をよく調査して、これに現われた抗告人の従来の性格、審判当日の態度、言動等から考えてみるに、抗告人が果して抗告申立書に書いてあるとおり、真実心の底から改心し、将来真面目に働く決心ができているかどうかについては、ただ抗告人自身が、抗告申立書にそのように書いているというだけで、他にこれを証拠だてるような行跡等が認められない限り、たやすくこれを信用することはできないから、抗告人が抗告申立書で述べている理由によつては、本件につき審判のやりなおしをすることは相当でないと考えられる。なお、記録をよく調べてみても、原裁判所のした中等少年送致決定には、決定に影響を及ぼす法令の違反、重大な事実の誤認又は処分の著しい不当があることは認められないから、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないものといわなければならない。

よつて、少年法第三十三条第一項、少年審判規則第五十条に則り、本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定ずる。

(裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 石井謹吾)

別紙(原審の保護処分決定)

少年 古沢太一(仮名) 昭和一五年二月一五日生 職業 熔接工

本籍 横須賀市○○○○○番地

住居 栃木県足利市○○町○○○○番地

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

少年の家庭は両親が病弱で生活力に欠けているので生活扶助を受けて辛うじて生活を営む状況下にあるが少年は昭和三一年四月頃より両親や妹達に対して暴言、乱暴の挙に出はじめ昭和三一年六月父が医療扶助により入院後は更に飲酒、喫煙をはじめ同年七月二〇日頃足利市○○町○○○○番地の自宅において母親T子を些細なことから平手で殴り更に同月二九日の夜自宅において食べ物のことで母親T子の顔面を平手で殴つて暴行をなし、一〇月一四日より勤め先に行かず無為徒食家庭内にあつて母や妹達を殴打する等の暴行をなし母や妹が少年の暴行を恐れて家を飛び出せばその留守中布団、釜、洗面器を持出して屑物商に売却して飲食代に消費する等全く保護者の正当な監督に服しないものであつてその性格と環境よりみて将来何等かの罪を犯すおそれがあると認められる。

よつて少年を収容保護すべきものと認め少年法第二四条第一項第三号少年審判規則第三七条第一項を適用して主文のとおり決定する。

(昭和三一年一一月一六日宇都宮家庭裁判所足利支部裁判官 大島隆司)

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